こんにちは、横浜市金沢区の司法書士・行政書士の伊丹真也です。
本日は、以前のブログでご紹介した「40年ぶりの相続法改正!司法書士が教える相続法改正のポイント①」の中から、「配偶者の居住権」について、より詳しくご紹介したいと思います。
1.配偶者の居住権制度の概要
配偶者の居住権とは、相続開始時に被相続人所有の建物に居住する配偶者が、相続開始後、終身その建物を無償で使用することができる、つまり、配偶者に「配偶者居住権」を認める制度です。この制度は、2020年7月12日までの政令で定める日に施行されます。なお、同時に配偶者が短期間居住できる仕組みも設けられています。
2.配偶者居住権とは?
(1)配偶者居住権
配偶者居住権とは、配偶者が、被相続人の遺産である建物を、無償で使用及び収益することができる権利です。
配偶者居住権があることで、所有権がなくても配偶者は当該建物を使用収益することが可能であり、所有者に追い出されることもありません。
相続が開始し、遺産分割協議を行う際に、子供が不動産を相続するケースが多くあります。これは、不動産を配偶者が相続するとしたら、近い将来において開始する二次相続でまた不動産の相続が問題となるため、その手間や費用を削減するためです。
しかしながら、不動産を配偶者ではない第一順位の相続人が相続してしまうと、建物の所有権を相続しない配偶者は、建物からの退去を迫られるかもしれません。
これでは配偶者の生活を守ることができないため、「配偶者居住権」の制度を創設し、配偶者が所有権を相続しなくても、建物にそのまま居住できるようにするのです。
(2)配偶者居住権の成立要件
配偶者居住権は、次の要件が揃えば成立することになります。
配偶者が、被相続人の遺産である建物に、相続開始の時に居住していたこと
以下の(ア)(イ)(ウ)のいずれかを満たすこと
(ア)遺産分割によって、配偶者が配偶者居住権を取得する
(イ)配偶者居住権が遺言によって遺贈の目的とされる
(ウ)被相続人と配偶者との間に、配偶者居住権を取得させる旨の死因贈与契約がある
当事者の合意のほかに、裁判所は次の場合に関しては、配偶者居住権に関して審判をすることが可能です。
・共同相続人間に、配偶者が配偶者居住権を取得することについての合意がある
・配偶者が配偶者居住権を取得したい旨を申し出た場合に、居住建物の所有者が受ける不利益を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認めるとき
(3)「配偶者居住権」の注意点
配偶者居住権の存続期間は、当該配偶者の終身の間です。配偶者短期居住権と異なり、数ヶ月しか建物を使用できないようなことはないのです。
ただし、遺産分割協議や遺言によって配偶者居住権の存続期間に関して終身の間とはしない取り決めをすることも可能です。
3.配偶者短期居住権とは?
(1)配偶者短期居住権
「配偶者居住権」の創設とともに、「配偶者短期居住権」も創設される見込みです。
配偶者短期居住権は、被相続人の遺産であった建物を配偶者が相続することができなくても、「6ヶ月間」は一定の要件のもと、その配偶者が建物に居住し続けることができる権利です。
「6ヶ月」とは、遺産分割によって居住建物の帰属が確定した日又は相続開始の時から「6ヶ月」を経過する日のいずれか遅い日までの間です。
被相続人の配偶者は、建物の所有権を相続によって取得した相続人に対して、建物を無償で使用する権利を主張することが可能です。
この「建物を無償で使用する権利」のことを「配偶者短期居住権」というのです。
(2)配偶者短期居住権の成立要件
要件は次の通りです。
・配偶者が、被相続人の遺産たる建物に相続開始の時において、無償で居住していたこと
(3)配偶者短期居住権の効力
配偶者短期居住権が認められた場合は、
・配偶者は善管注意義務に基づいて建物を使用しなければいけない
・配偶者短期居住権は、譲渡することができず、建物に居住できるのは配偶者
・配偶者は、他のすべての相続人の承諾がない限りは、第三者に当該建物を使用させることはできない
・配偶者は、当該建物の使用に必要な修繕をすることができる
・配偶者は、当該建物の通常の必要費(修理費など)を負担することになる
4.さいごに
以前までの相続法では、故人の持ち家に同居していた配偶者が住み続けるには、配偶者が自宅を相続するという形が一般的でした。しかし、自宅の不動産評価額が高額となった場合には、自宅を配偶者が相続することで預貯金の相続分が減り、老後に生活費が不足してしまうという事態が生じてしまいます。実際にそういう事態に陥り、最終的に自宅を手放すというケースも少なくありませんでした。本制度の創設により、遺産分割において預貯金等の相続分が増え、老後も無償で自宅に住み続けられるので、老後の生活も安心ですね。
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